PLA結晶化検討

PLAの普及を阻んでいる要因の一つに結晶化速度の遅さがあります。
PLAは射出成型でも使用されます。成型後は通常非晶状態になっていますが、
ガラス転移点以上の温度で加熱することで結晶化させることができます。
PLAは結晶化後させることで耐熱性、耐衝撃性を付与でき、
他の汎用樹脂同様、普段使いの用途に使える十分な特性を持っています。
しかし、射出成型においてPLAを結晶化させるには金型内などで
高温で長時間保持する必要があり、量産ベースではとても採算に合いません。

 

PLA結晶化はよく研究テーマとしてあがるネタで、
樹脂メーカーでも昔から改善検討が行われてきました。
PLAのL体とD体の比率、造核剤種などが代表的なファクターです。
低温、短時間でも結晶化するように処方検討が盛んにおこなわれており、
日本メーカーでも数多くの改質PLAが上市されています。
かなり改善してきてはいるのですが、
昨今コストダウンや性能の要求が厳しく、
改質PLAでもさすがに汎用樹脂には勝てないため、
なかなか普及が難しいようです。

 

3Dプリンタ用途であれば、時間がある程度かかっても許容できることが多く、
結晶化PLAとして使える可能性があります。
市販のグレードを使ってPLA結晶化の検討を行いました。

 

後結晶PLAフィラメント

一般的にPLAを結晶化させるには、上述のように成形時の
金型内でそのまま結晶化させる方法(金型内結晶化)、
非結晶の成形体を熱処理する方法(後結晶化)があります。
今回はPLAを後結晶させることができるようグレード選定を行いました。
写真が作製した後結晶PLAフィラメントです。

 

耐熱性検証

後結晶PLAフィラメントを使って、
3Dプリンタで試験片を作成しました。
200℃、infill=100%、厚み1.5mmで造形。
普通のPLAと同じ条件で造形できます。
上がアニール前、下がアニール後です。
(アニール条件:110℃ x 20分 家庭用オーブンにて)

 

アニール処理によって色が白く変化しました。
PLAが結晶化していると考えられます。
アニール処理による大きな反りはありませんが
少しだけ収縮しました(今回は約1.5%収縮)。

 

 

試験片をクリープ試験にかけます。
簡易的に冶具を作りました。投入時の写真です。
試験片を浮かせて両端固定します。
この上に30gの重りを載せ、120℃加熱を行います。

 

 

クリープ試験後の写真です。
一番上から、
①一般PLA
②後結晶PLA(アニールなし)
③後結晶PLA(アニールあり:110℃ x 20分)
④ABS

 

①、②:投入開始3分で荷重部がダレはじめ、
    重りが落下しました。ガラス転移点による
    軟化によるものと考えられます。
④  :少しだけ荷重部がダレました。
    それ以上に反りがすごいです。
    反りによって投入開始17分で重りが落下しました。
    3Dプリント時のひずみが
    加熱で解放されたものと考えられます。
③  :20分経過しても重りが落下することなく
    耐えました。特にダレ、反りなどなく、
    形状に大きな変化はありません。

 

 

ざっくりした評価ですが、
100℃近辺での耐熱性があることがわかりました。
後処理が必要な面倒さがありますが、
耐熱性、耐衝撃が改善できれば
PPなどの汎用樹脂に近い使い方ができ、
用途が拡大できる可能性があるかと思います。