PBAT樹脂について

PBATはポリブチレンアジペートテレフタレートの略称で、原料が石油由来の生分解性樹脂です。PBAT樹脂は1990年台にドイツのBASF社で開発が行われたことに端を発します。1998年に量産が開始され、2000年に日本でも販売が開始されています。

 

PBAT樹脂ペレット

 

PBATの特性は低密度ポリエチレン(LDPE)にとても似ています。非常に軟質で強靭な特性です。PBATはエンプラであるPBTに、アジピン酸を共重合した樹脂です。PBTのテレフタル酸(ベンゼン環を持つため剛直な特性を生む)を、一部アジピン酸(脂肪族であり柔軟な特性を生む)に置き換えることによって、生分解性が発現するようになります。PBATの生分解性のしやすさはテレフタル酸含有量に大きく関係しており、テレフタル酸含有量が55%molを超えるとPBATの生分解率は低下することが知られています。

 

PBATで最もよく用いられるのは農業用のマルチフィルムです。マルチフィルムは畑のうねを覆う資材のことで、雑草防止や雨による肥料流出防止などの目的で利用されています。従来マルチフィルムはポリエチレン製でしたが、この場合は回収廃棄の手間がかかります。放置すると以降の栽培の際に根に絡みついて作物の育成を阻害してしまうため厄介です。生分解性があれば畑にすき込むだけで分解してくれるので費用的にも作業的にも楽になります。他にもLDPE製品の置き換えとして、食品包装用の袋、飼料や米、肥料などの重包装用の袋、梱包用ストレッチフィルムなどにも使われはじめています。

 

PBATは他の生分解性樹脂と溶融混合した際の相性が良いため、脆さや強度などの改善を目的としてPLA、PBSなどの樹脂と混合し、改質用途として用いられることもあります。生分解性樹脂の改質に石油系樹脂を用いると生分解性を損なってしまいますが、生分解性樹脂どうしの混合であればこの問題はクリアできます。

 

いくつかの生分解性樹脂では原料が食品原料由来となっていることも多いです。生分解性樹脂は世界中で需要が急激に増加していますが、将来的に食料問題につながったり、農地と競合したり、農地の拡大から来る森林伐採を引き起こす可能性も懸念されています。PBATは原料が石油由来であることにネガティブな印象を持たれることもありますが、生分解性樹脂全体として見た場合の持続可能性を担保する上では重要であるともいえます。

 

PBATは酵素分解型の生分解性樹脂で、主に土壌中の微生物が分泌する酵素が高分子の結合を切ることによって分解が進みます。PBATは酵素によってオリゴマーに分解された後、樹脂を構成する成分(1,4-ブタンジオール、アジピン酸、テレフタル酸)にまで分解します。これらの構成成分は、最終的に微生物のエネルギー源となって資化されます。製品用途を考える際、PBATが生分解されるのは主には土壌中であり、海洋中や一般環境では生分解が進みにくいということは知っておく必要があります。

 

PBAT樹脂を生産しているメーカーは、BASF(ドイツ、ECOFLEX®、生産キャパ 60,000トン/年)、金発科技(中国、ECOPOND®、生産キャパ 50,000トン/年)、NOVAMONT(イタリア、Origo-Bi®、生産キャパ 40,000トン/年)などで、主に生産拠点は欧州と中国となっています(生産キャパは2020年のデータ)。