PLA樹脂の歴史と現状

PLA樹脂開発の歴史

PLAは実用化されてからまだ20年ほどで、歴史の浅い樹脂です。PLAは1930年代から研究開発が進められてきました。当時のPLAはまだ実用からは遠く、通常の室温環境下でも加水分解が進行してしまうほど不安定なものでした。ポリマー自体がわずか数カ月の寿命しかなかったため、製品を作ってもすぐボロボロになってしまい、とてもプラスチックとして成り立つレベルではありませんでした。PLAは昔から存在は知られていたものの、物性を満足するポリマーの製法が確立できなかったことと、安価な原料調達が困難だったこともあり、実用化にはずいぶん長い時間がかかりました。

 

その後研究が進められ、PLAが加水分解する主な原因は、残留モノマー(ラクチド)が数%と多いためであることがわかってきました。ラクチドは室温環境下でもPLAポリマーの末端にカルボキシル基を作ります。このカルボキシル基は水を呼び込みやすいため、加水分解を促進してしまいます。高純度のPLAを製造するための技術開発が行われたことで、ラクチドの量を数%から0.2%程度にまで下げることができ、ようやくプラスチックとしての実用化のメドが立ちました。本格的な商業生産は、2002年に米国カーギル・ダウ社(現ネイチャーワークス社)の生産能力14万トン設備の稼働により始まりました。

 

PLA樹脂の現状

PLAはリリースされた当時、地球温暖化の原因とされるCO2削減や廃棄物問題を解決するアイテムの一つになると考えられ、とても期待された樹脂でした。2005年に開催された「愛・地球博」では食器やごみ収集袋にPLAが使用され、これを契機に一般にもPLAが広く知られるようになりました。当時、ノートパソコンや携帯電話(ガラケー)にPLAが使われたCMやパンフレットをよく見たという方もいらしゃるかもしれません。

 

PLAは代替の対象となる石油由来のプラスチックと物性やコストの面で太刀打ちできるところにまでなりつつあります。ところが2019年現在、PLAは当時期待されたほどは盛り上がりを見せていません。

 

いくつか理由がありますが、やはり用途が限られることが大きいかと思われます。PLAは石油由来の汎用樹脂に比べて結晶化速度が遅いため、射出成型では結晶化させることが難しくなります。ガラス転移点(Tg)が55℃と低いため、結晶化させないと製品の耐熱性が低くなり、荷重によっては50℃くらいでも変形してしまいます。夏場のトラック輸送や倉庫保管中に製品が変形してしまうことがあり、モノによっては流通に乗せることが難しいこともあるようです。船便などでも輸送の際に遮熱シートで被うなど対応がとられることがありますが、コストを押し上げてしまう要因になります。

 

PLAを使って射出成型で作られる製品は食品トレーやノベルティグッズなど、その場限りで使われる「消えモノ」に多いため、PLAでできた射出成型の製品を目にする機会はあまり多くありません。PLAは延伸すると結晶化するので、フィルムや繊維用途ではわりと使用されています。食品包装用フィルム、衣類などには採用が進んでいるようです。ですが射出成型には延伸工程がないため、どうしてもこのあたりがネックになっています。

 

PLAが結晶しやすくなるように核剤微粒子を分散させたり、ポリマー中のD体比率を下げたり、樹脂の可塑性を上げたりといった手法がとられていますが、それでも石油系樹脂の結晶化速度に追いつくのはギリギリで、成型サイクルを遅くしないと安定生産できないといったこともあるようです。

 

これからのPLAは?

いろんな普及を妨げる要因があって、目先の需要は伸び悩んでいるようですが、それでもバイオマスプラスチックという切り口で見ると、PLAは注目されていることは変わりません。原油価格の上昇、温室効果ガス対策、マイクロプラスチックによる海洋汚染対策などもあり、PLAを含むバイオマスプラスチックは使いこなしが進んでいくと思われます。まだPLA樹脂はスタートラインに立ったばかりです。どんな形で普及が進んでいくのか、見ていくとおもしろいかもしれません。