2019年に発生したPLA樹脂の世界的需給ひっ迫について

近年マイクロプラスチック問題などに端を発する環境への意識の高まりがあり、使い捨てとなる石油系プラスチック代替品に対する需要が世界的に急増しています。バイオベースであるPLA樹脂が代替品の1つになりうると考えられており、商品の包装容器などへの採用が進んでいます。これは好ましいことではありますが、残念ながら供給が急増する需要に追いついていません。特に2019年夏ごろからPLA樹脂の世界的な需要が急激に増えたことから、PLA関連製品の価格引き上げ、品薄といったことが起き始めています。3Dプリンタ用フィラメントでは英国のFilamentiveが2019年11月にPLAフィラメントの価格を10~20%引き上げました。

 

PLA需給ひっ迫によるフィラメント価格引き上げ

https://www.filamentive.com/important-notice-pla-price-change/

 

PLA樹脂を製造しているのは世界でも少数の工場だけです(世界のPLA(ポリ乳酸)樹脂メーカー)。PLA樹脂の最大手はアメリカのNatureWorksで、世界の50%以上のPLA樹脂を供給しているといわれています。このNatureWorksがPLA樹脂の供給に制限をかけ始めたようです。代替のPLA樹脂供給先がないため、市場にPLA樹脂やPLA成形品が出回りにくくなっています。PLA樹脂メーカーはすでに将来の需要増を見越した生産能力増強を行っていますが、それよりはるかに大きい市場の要求を満たしていくためにはさらなる能増やバイオマス原料の安定調達といった課題を解決していく必要があります。しかしこれらを実現する見通しは立っておらず、メーカーからも見解がでていないことから、この問題を解決するにはしばらく時間がかかると予想されています。PLA樹脂の供給不足は当面続きそうです(Sustainable Future: Why is there a global shortage of PLA and how will it affect the catering and hospitality industry?)。

 

PLA需給ひっ迫

PLAカトラリーのメーカー。PLA樹脂原料を買うのに現金で支払っても1~2ヶ月待たないと入荷しない状況とのこと。

 

日本でも2019年に台風15号、19号で多くの地域で災害がありましたが、日本だけではなく、最近は世界的な気候変動が原因とみられる豪雨や熱波が増加傾向にあり、各種バイオベース樹脂の原料となる農作物の収穫にも影響を与えています。

 

農研機構は降水量と穀物収量データを解析し、干ばつによる世界の穀物生産影響の地理的分布を明らかにしました(https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/131199.html)。これによると、過去27年間(1983-2009年)に1回以上の干ばつで収量被害を受けた穀物の栽培面積は、コムギ1.61億ヘクタール(世界の収穫面積の75%)、トウモロコシ1.24億ヘクタール(同82%)、コメ1.02億ヘクタール(同62%)、ダイズ0.67億ヘクタール(同91%)でした。また、1回の干ばつによる穀物収量減少率3)は、27年間の平均で、コムギ8%(ヘクタールあたり0.29トン)、トウモロコシ7%(同0.24トン)、コメ3%(同0.13トン)、ダイズ7%(同0.15トン)でした。PLA原料として多く使われているトウモロコシだけに限っても8割を超える地域で何らかの災害を受けていることになります。これは干ばつだけのデータで、豪雨など他の災害を含めると実際はさらに多くの被害を受けていることも考えられます。

 

PLAが開発された2010年当時、PLAを含むバイオベースの樹脂は飼料用の穀物を使ったり、食料用穀物を生産するときに同時に作り出される残渣(かす)から原料を抽出するため、石油系樹脂からバイオ系樹脂への代替が直ちに食糧問題に影響を及ぼすとは考えにくいと言われていました。今回のPLA樹脂の供給不足が気候変動や食糧問題につながっているかは明確にはわかりませんが、樹脂原料安定調達の観点からも、植物のセルロースなど食糧問題と競合しない非可食性・未利用のバイオマスからのPLA製造を行う技術開発の加速が期待されます。