PLA樹脂のL体とD体について

PLA樹脂の耐熱性、機械特性を決めている大きな要因の1つにD体比率があります。はじめてPLA樹脂を扱うときには実際のところ選定に困ったりすることがあります。欲しいデータがなかったり、A社ではあるデータがB社で欠けていたり、書いてある英語の説明文だけでは用途に合っているかわからないなど。国内ではPLA樹脂はあまり使われていませんので、なかなか聞こうにも聞けなかったりすることがあります。D体比率についてわかっていると、そのグレードがどんなところを狙って作られているか背景が見えてきます。データシートに書いてある以外のところを予想できたり、各グレードの関係性や特性の動き方が理解しやすくなります。D体比率はPLA樹脂を扱う上で一番基本的なところになりますので、理解しておいて損はありません。

 

PLA樹脂でL体とD体って何のこと?

まず少しPLA樹脂の構造について考えてみます。PLAは乳酸が重合して長くつながった高分子ですが、この乳酸には2種類があります。L-乳酸とD-乳酸です。この2つは鏡に映したような左右反対の構造になっていて、向きを変えても重ね合わせることができません。このように分子式としては同じでも特性が異なる化合物は光学異性体、鏡像異性体と呼ばれます。

L-乳酸とD-乳酸

乳酸(Lactic Acid) : CH3CH(OH)COOH

 

PLAを構成している乳酸モノマーのことを言うときに、簡単にL体(L-isomer)、D体(D-isomer)という呼び方が使われます。PLAの高分子はL-乳酸とD-乳酸がつながってできていますが、実はほとんどがL-乳酸で構成されています。その中にわずかですがD-乳酸が入っています。このわずかなD-乳酸の量によってPLAの特性が大きく変わってきます。そのためD-乳酸の比率はPLA樹脂にとって大変重要です。

 

PLA樹脂中のD-乳酸の比率を表現するのには2つの方法があります。

D体比率(D-isomer content) → PLA樹脂中にD-乳酸がどれだけ含まれているか
光学純度(Optical purity) → PLA樹脂中にL-乳酸がどれだけ含まれているか

 

メーカーによってD体比率、光学純度、どちらの表現を使っているかが違いますが、D体を基準にするか、L体を基準にするかの違いだけで、どちらで表現しても意味は同じです。例えばPLA樹脂中にD-乳酸が4%含まれていればD体比率でいうと4%になりますし、光学純度でいうと96%になります。数値だけ書くとどちらの表現かわかりにくいので、D体比率だと4%-D、光学純度だと96%-Lなどと記載されることもあります。

 

D体比率で何が変わる?

PLAはD体比率によってこんな感じの変化をします。

D体比率によるPLA樹脂の特性変化

特性 D体比率が下がると D体比率が上がると
結晶化 結晶化しやすくなる 結晶化しにくくなる
融点 上がる 下がる
ガラス転移点 上がる 下がる
耐熱性(*) 上がる 下がる
強度(*) 上がる 下がる

(*)十分に結晶化させた場合

おおざっぱに書くと、PLA樹脂はD体比率が低いほど高耐熱、高強度になり、D体比率が低いほど融点が下がり、強度も下がります。メーカーではよくD体比率の低いものが耐熱・高強度グレードとしてラインナップされています。ただしこれは結晶化させれば、という条件付きであることに注意する必要があります。十分結晶化させない場合はD体比率が低くても低耐熱、低強度となってしまいます。

 

PLA樹脂は一般的な結晶性樹脂と違って結晶化速度が遅いため、基本的には成形したままでは十分結晶化しません。加熱されていない、あるいは加熱が甘いなどで結晶化が不十分な場合は耐熱、強度アップの効果を得ることができません。そのため成型時に加熱するか、成形後に加熱するかが必要になります。

 

PLA樹脂では成形用途での需要から耐熱や高強度を求められることが多いため、D体比率低めのものに着目されることが多いですが、D体比率を上げて使用されることもあります。D体比率を上げていくと融点が下がり、やわらかくなっていきます。この特性を活かしてD体比率を8~10%としたPLA樹脂はホットメルトやヒートシール用途に使われます。さらにD体比率を上げて10%を超えると非晶性樹脂になり、いくら熱をかけても結晶化しなくなります。

 


A selection of Ingeo PLA grades from NatureWorks classified according to their viscosity and D-LA content.

 

どのPLA樹脂メーカーでもグレード整理をするために、よくこの図がでてきます。各D体比率での融点も書いてありますので参考になるかと思います。横軸がPLAのD体比率、縦軸が分子量です。横軸左側に行くほど高強度・高耐熱、右側にいくほど融点が低く軟質、という形です。縦軸は、上の方に行くほど高粘度(押出成型向き)、下に行くほど低粘度(溶融紡糸、射出成型向き)となります。上の図はNatureWorksのものですが、この図はどのメーカーでも掲載していることが多いので探してみてください。全体を見た上で目的の用途に合致するか確認し、グレード選定するといいかと思います。

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