PLA表面処理におけるジクロロメタンの危険性

 

溶剤で3Dプリント造形品を表面処理して積層痕をスムージングしたり、ノズルの詰まりを除去したりといったことが行われています。ABSの場合はアセトンが使えるのですが、PLAの場合はなかなかいい溶剤がありません。PLAを溶かす溶剤としてはジクロロメタン、THF(テトラヒドロフラン)、DMF(ジメチルホルムアミド)などがありますが、いずれも危険性が高い溶剤です。個人でも入手可能なため、ジクロロメタンでPLA造形品をツルツルにしている例を見かけますが、吸引して健康障害を引き起こす恐れがあるため、十分に対策をとって作業したほうが無難です。PLAの表面処理ができる商品も販売されていますが、購入前によく内容物を確認しておいた方がよいかと思います。

 

ジクロロメタンの危険性

溶剤としてはジクロロメタンという名称の方で流通していることが多いですが、塩化メチレンという慣用名で呼ばれることもあります。水に難溶で、溶解力が大きいという特徴があり、油脂類の抽出に使われたりするほか、樹脂やゴムなどの溶剤、洗浄剤、冷媒としても使われます。毒性があるため注意が必要です(発がん性あり(グループ2A))。吸入によりめまい、頭痛、吐き気を引き起こし、麻酔性もあるため有機溶剤中毒予防規則の第二種有機溶剤に指定されています。

 

2012年3月、大阪の印刷事業所で特定の洗浄作業に従事していた従業員に、異様に高い率で胆管がんの発症が相次ぎ、死亡者まで出たため各メディアで大きく報じられました。工程でインクを洗い落とす洗浄剤として1、2ジクロロプロパンとジクロロメタンを使用しており、現場はきつい刺激臭がたちこめていたそうです。この問題を受けて各団体で調査が行われました。医学的な観点も含めて報告書が取りまとめられ、胆管がんは1、2ジクロロプロパン、ジクロロメタンを含む溶剤に長期間、高濃度にばく露されたために発症したと推定できるとの見解が示されました。また、この後ジクロロメタンは2014年11月の特定化学物質障害予防規則等の改正で、特定化学物質として規制されることになりました。1、2ジクロロプロパン、ジクロロメタンは解毒作用を持つ肝臓で主に分解されますが、高濃度になると肝臓だけでは追いつかなくなり、胆管内にある酵素も分解に加わり、この分解の過程で胆管の細胞ががん化すると考えられています。

 

この大阪での事件は多量に洗浄剤を扱っており、かつ換気不十分であったことなど有機溶剤に関する認識不足や労働環境不備に問題があったこともありますが、ジクロロメタンは少量でも危険であることにかわりはありません。洗浄やふき取りで汚れがよく落ちるため、昔からの慣習が残っているところではジクロロメタンを平気で使用するケースもあるようですが、甘い認識で扱っていい物質でないことは理解しておく必要があります。

 

ジクロロメタン混合溶剤はアクリル用接着剤としても市販されていますが、表面処理で使う場合は露出状態となり、塗布面積が広いため揮発量が多くなります。たまにしかやらない場合でも作業中はしっかり換気を行うこと、ジクロロメタンを塗布した造形物、使用したハケや受け皿などは屋外で十分に風乾することを徹底したほうがいいかと思います。小分け保管する場合は、容器によっては密封が不十分で揮発していく可能性があります。少量でも長期間ばく露されることになりますので十分注意してください。

 

針刺し事故、皮膚付着にも注意!

アクリル工作でもジクロロメタンはよく使われます。この時に注射器が使われることがあります。細かい隙間に注入して貼り合わせたり、浸透させたりするのにとても作業性がよく便利です。便利ではあるのですが、誤って針を刺してしまう事故も時々発生します。下記はジクロロメタン針刺し事故の写真です。発生後約15分後に指が紫色に変色して拡大してきたためおかしいと気づき、急いで病院受診しところ緊急手術となりました。大変な事故につながる可能性があるので十分に気を付けてください。

 

ジクロロメタン針刺し事故

Safety First: A Recent Case of a Dichloromethane Injection Injury

 

ジクロロメタンは、皮膚に付着すると炎症を起こしやすいことでも知られています。非常に浸透性が高く、一般のゴム手袋では長時間の使用だと浸透してしまいます。気づいたら手が炎症を起こしてしまっているというケースもあるので注意が必要です。必ずジクロロメタン対応と記載のある耐溶剤手袋を使用してください。