PLA樹脂 2021年の展望

PLA樹脂ペレット

Source : https://www.total-corbion.com/

 

2020年もPLA樹脂は需要拡大が続きました。海外を含む化学大手メーカーはパンデミックによる経済の停滞から減産を余儀なくされるといったことも起こりましたが、PLA樹脂はかなり事情が異なっていたようです。2020年に何が起きていたか、2021年の見通しはどうなのか、次の記事をもとに整理してみたいと思います。Outlook 2021: Increased demand for biomaterials

 

プラスチック製品を取り巻いている状況

まず、パンデミックより以前に気候変動やプラスチックごみ海洋汚染は大きな問題として取り上げられてきており、すでに消費者の意識は変わってきていました。EUにおいて代替品が既に存在する使い捨てプラスチック使用禁止が決まったことがきっかけとなり、PLAを含むバイオ由来樹脂に対して世界的かつ巨大な需要が生まれました。主に近年EUでPLA樹脂の需要が急拡大しているのはこのEU理事会の指令採択が大きいとされています。カトラリー、ストロー、包装資材などこれまで使い捨てプラスチックに頼っていた製品をいきなりやめますと使わないようにすることはできません。このような製品はPLAに置き換えて使わざるを得ない背景があります。

 

 

また、PLA樹脂大手メーカーのNatureWorksグローバルマーケティングコミュニケーションマネージャーであるLeahFord氏は、次のように説明しています。

「2020年はじめに見えていたのはプラスチックを取り巻く環境問題です。特に持続可能性なだけでなく、衛生面、安全面にもメリットがあるバイオ由来の使い捨て製品に対する需要が高まっています。」

 

日本では事情が異なるので少しニュアンスが伝わりにくいですが、海外では環境問題に加えてプラスチックの安全性についても以前から疑問が持たれていました。石油系樹脂はトキシックなイメージがついて回りがちです。いろんな環境に悪いニュースが飛び交う中で、安全性について誤解されることも多くなってきました。石油系樹脂は使用において必ずしも毒性があるわけではありませんが、PLA樹脂はバイオ由来の原料であることから、口にするものや食品に触れるものへの利用について理解が得られやすい背景があるのでしょう。こういった事情もPLAの使用を後押ししているようです。

 

パンデミックに対するPLA樹脂の影響はどうだったのか?

パンデミックは世界中で社会的にも経済的にも大きな危機を引き起こしました。市場全体の見通しが急速に悪化し、様々な混乱がありましたが、結果的にPLA樹脂はそれほど悪影響を受けなかったようです。アメリカのネブラスカ州ブレアにあるNatureWorksのプラントはポリマーの生産記録を更新し、2020年の稼働状況は非常に順調でした。

 

2020年3月に入り、世界のサプライチェーンは直撃を受けました。各種必需品の供給がストップしたことで医療、介護の現場は危機的状況に陥りました。その中で世界中でデータを共有し、3Dプリンタを使って供給する取り組みが注目されました。イタリアの病院で人工呼吸器のバルブが足りなくなり、3Dプリンタで作ったバルブが命を救ったというニュース、フェイスガードなど個人用保護具(PPE)を作って医療機関に提供するという動きもありました。この中でもPLA樹脂は大きく活躍しました。

 

 

また、感染拡大が長期化する中でマスクが日常的に欠かせないものになりました。2020年4月には世界の主要都市が次々とロックダウンになり原油需要が急減したこと、中国においてマスク向けの需要が高まったことからポリプロピレン(PP)樹脂の価格が乱高下し、石油系樹脂の供給がギクシャクするといったことも起きました。

 

このような中、PLAはマスク用の不織布を作ることにも貢献しました。PLA樹脂はスパンボンドで不織布用途にも用いられます。マスクは大量に使用され、衛生面からは使い捨てが求められますが、このような用途にPLAは向いています。マスクの需要はしばらくの間続くため、新しいPLAでのスパンボンド技術は2021年にさらに普及すると見られています。

 

PLA樹脂でここ数年で成長がみられる用途

PLA樹脂は使い捨て食器、食品容器、包装資材などの用途が多いですが、これ以外にも用途が拡大しています。NatureWorksのLeahFord氏は次の3点をあげています。新規でPLAを使った製品を開発するというより、既存樹脂から置き換えることでメリットがでるものから積極的にPLAが採用されていく動きが今後活発になっていくと思われます。

 

コーヒーカプセル、ティーバッグ

食品容器、包装用資材としての利用の延長です。これまでコーヒーかす、茶がらなどのパックには石油系プラが使われていたため焼却、埋め立て処分することしかできませんでした。こういたパックにコンポストが可能なPLAを使用することで、コーヒーかすや茶がらなどのパックつき生ごみをそのままコンポスト処理ができるようになった例です。PLAと生ごみが一緒にコンポストされることで分解も早くなり、養分を堆肥に供給することもできます。

 

3Dプリンタ用フィラメント

3Dプリントに適しており使いやすいため、フィラメント素材としてのスタンダードになっています。工業用途からは耐熱性や耐衝撃性などの特性も好まれています(結晶化)。PLAはインベストメント鋳造(ロストPLA)用としても使われており、クリーンかつ速く燃焼する特長があります。アクリル系樹脂やワックスの場合焼却時不完全燃焼によるガスが生じることがありますが、PLAは有毒ガスが生じず労働環境も向上することから、鋳造の新しい工法の一つとして注目されています。

 

PLA樹脂水分散液

エマルジョンとして塗工用、接着用として使われます。表面に多彩な装飾などが施された容器や包装ではインキや塗工剤が生分解性を阻害する原因となっています。PLA容器への印刷の他、紙や厚紙などへのコーティング剤としての使用が増えており、紙コップなどへの採用が増えています。溶剤フリーでクリーン、CO2排出量が少ない、リサイクルとコンポスト化の両方が可能になるとして用途が拡大しています。

 

今後のPLA樹脂はどうなる?

2020年にリリースされたPLA樹脂大手2社の増産に向けた動きは下記の通りです。

NatureWorks

アメリカネブラスカ州ブレアにある現在の製造施設を能増。2021年末までにIngeo PLAを含むバイオマテリアルの製品群の設備稼働率を10%向上させる見込み。
NatureWorks announces additional lactide monomer purification technology to expand the availability of Ingeo biopolymer from Blair facility

 

Total Corbion PLA

年間10万トンまでの生産能力を持つPLAプラント建設を発表。新工場はフランスのグランピュイ。2024年に稼働予定。
Total Corbion PLA announces the first world-scale PLA plant in Europe

 

まだ2021年1月現在で感染拡大は世界的にも続いています。環境問題は一旦影を潜めましたが、棚上げになっているだけで解決したわけではありません。今後も使い捨てプラスチックをPLAに置き換える動きは活発になっていき、需要拡大が見込まれます。これまではPLA樹脂は高くて使いにくいけどしぶしぶ使うという、どちらかというと消極的な使われ方でした。今後潮流は大きく変わっていき、世界中で使われる主流の樹脂に成長していくと予想されます。