メルトフラクチャの発生原因と対策
樹脂の押出では生産性の向上、低コスト化を実現するために速い速度で押出して加工する必要があるのですが、溶融粘度が高い樹脂の場合は生産速度を上げると押出品の表面に肌荒れが発生することがあります。この現象は重度だとメルトフラクチャ、軽度だとシャークスキンと呼ばれています。メルトフラクチャやシャークスキンが発生すると、製品機能や外観を大きく損ねるため不良品となってしまいます。やっかいで大変嫌われる現象です。
メルトフラクチャ発生のメカニズム
溶融樹脂はダイの細い穴を通っていきますが、この時に樹脂はずり応力を受けます。大部分のエネルギーは粘性流動に使われますが、溶融樹脂は粘弾性体であるため一部は弾性エネルギーとして蓄積されます。樹脂の吐出量を上げようとして圧力を上げると、どんどんずり応力が大きくなっていきます。蓄積された弾性エネルギーが樹脂の壁面との接着エネルギーより大きくなると、最終的に樹脂は壁面よりすべりだしてメルトフラクチャを起こすと考えられています。
メルトフラクチャの対策
主要なメルトフラクチャの対策は下記の通りです。実施が難しいものも多いです。
温度アップすればすり応力が下がります。これで解決できるなら一番楽です。ただ、温度をあまり上げると樹脂が熱分解して成形品の機械特性が低下したり、変色したりします。溶融粘度低下によるドローダウンで成形品の寸法精度が損なわれることもあります。
ゆっくり押し出すと、同じくずり応力が下がります。生産性が落ちるので積極的にやりたいアクションではありません。少し下げるくらいで実現するなら可能性はありますが、あまり選択肢としては取りたくない方向かと思います。
メルトフラクチャを防ぎながら生産速度を高めることができるとしてフッ素系の添加剤が市販されています。少々コストアップにはなりますが、特性に影響がなければ選択肢としてはあり得る項目かと思います。
ダイの樹脂接触面にフッ素樹脂をコーティングする方法があります。ただしコーティングは永続的にもつわけではないのでライフの問題が出てきます。ダイの壁面と樹脂の間エアや窒素などを流して流体層を設ける方法もありますが、大変高額になります。
粘着促進剤を添加して樹脂がスリップしないようにする方法です。ある意味スリップ剤やフッ素コートとは逆のアクションです。一部文献に記載がありますが、メジャーな方法ではないかもしれません。
断面積を増やせばずり応力も減ります。簡単な形状であれば実現できる可能性があります。ただしダイを製作するコストがかかりますし、設計上無理な場合もあります。引き落としの率が変わりますので、プロセス上の条件設定が難しくなる可能性もあります。
どうしてもだめなら樹脂を高流動のものに変えることになります。
対策はどうしたの?
上の写真のメルトフラクチャの対策はどうしたかというと、結局いろいろ上記の対策を検討したもののうまくいかず、打つ手がなかったので最終的には合う樹脂を探し、高流動のものに変えてようやく改善しました。対策がなかなかむずかしい症状だと感じます。
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