樹脂のコンパウンドとは
原料樹脂(ナチュラル樹脂)に顔料、添加剤、他の樹脂などを混ぜ合わせ、新しい外観、物性、機能を持つ樹脂に加工することを「コンパウンド」と言います。
世の中には多くのプラスチック製品がありますが、樹脂原料をそのまま成形品にしていることはあまりありません。例えば自動車のバンパーに使われるポリプロピレンは、そのままだと柔らかくて使えませんが、炭酸カルシウムを混ぜ合わせることで硬さが増します。家電製品やAV機器の筐体に使われるABS樹脂には難燃剤を混ぜて燃えにくくしたりします。このようにプラスチック製品には何らかの機能を付与していることが多く、あまり目立ちませんがコンパウンドはプラスチック製品には欠かせない技術となっています。
樹脂には顔料、難燃剤、可塑剤、無機物、有機物などいろんなものを混ぜます。樹脂を溶かしてこれらの材料を混ぜることを「混練」(こんねり)と呼んでいます。混練はただ混ぜるだけで一見簡単な行為に思えるのですが、特性の異なる素材なので基本はうまく混ざってくれません。多くの場合は分離したり、凝集したりします。分離や凝集を起こすと成形品にしたときに強度がでなかったり、耐久性が落ちたりすることもありますので均一に分散させることは技術的には大変重要です。
うまく均一に混ぜるのには材料に応じた装置が必要です。二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、熱3本ロールといった専用の装置が使われます。材料同士を混ぜ合わせてミクロンオーダー、用途によってはナノオーダーまで分散させることが必要となり、条件調整もノウハウが必要になってきます。このように、樹脂メーカーから調達した樹脂原料に顔料、添加剤、充填材などを混練し、ペレットなどに加工して成形加工メーカーに販売する仕事をしているのがコンパウンドメーカー(コンパウンダー)です。
二軸押出機での樹脂コンパウンド
混練後にひも状に押し出してカットし、ペレットにする
樹脂1トンを成形するのに、1トン分を全部コンパウンドすると加工費用が高くなってしまうことがあります。そのため、多くのコンパウンドメーカーでは樹脂に添加剤を高濃度に混練したものを作っています。これをマスターバッチと呼んでいます。成形加工メーカーでは原料樹脂にマスターバッチを入れ、所定の濃度に希釈して成形するといったことが行われています。
成形時に材料同士を混合して投入すれば、成形加工メーカーでもある程度の樹脂の改質は可能です。しかし成形機は本来は材料を成形するための装置であり、樹脂に多量の添加剤を混練する機能は持っていません。成形で多量の添加剤や粉体を扱うと成形が安定しない、成型機を汚してしまうというデメリットもあります。また、混練のノウハウをコンパウンドメーカーが持っているなどの理由もあり、多くの成形加工メーカーはコンパウンドメーカーを利用しています。
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