PLA樹脂はフィラメント以外に何に使われているか?
PLA樹脂は環境意識の高まりから、世界的に見ても年々需要が増えています。PLA樹脂はフィラメント用としては一般的ですが、他にどんなところに使われているのでしょうか。
最も多くPLAが使われている用途はフィルムやシートの分野です。食品などの包装フィルム、包装容器として使われています。PLAは酸素などのガス透過性、水蒸気の透湿性があります。この性質を活かして、野菜・果物などの包装材や容器、惣菜パック、弁当用のトレイなどに使われています。透明性が高く、耐水性もあること、融点が低いためヒートシール性があることなどが理由です。PLAはフィルムにしてもわりとコシがあるので、薄くてもそれなりに強度が出せるということもあるようです。ガスバリア性が必要な場合はオレフィン系樹脂とラミネートした複層フィルムとして使っていることもあります。
フィルムだと延伸ができることも利点です。PLAは固まりそうなところで引っ張ってやると分子が配向して結晶化します。結晶化すると耐熱性や機械特性が向上するので、延伸技術はPLAにとって重要な要素です。
同じく繊維の分野でも、延伸性がよいのでいろんな用途に使われています。化学繊維でよく使われているのはPETですが、最近はPLAを使った繊維も出てきました。PLAの繊維は柔軟で、ソフトな風合いや触感があります。PLAは屈折率が低いため、深みのあるシルクライクな光沢をもっており、外観の面でも好まれています。PLAを繊維として使うには課題もあります。PLAは融点が約170℃で、PETの融点である260℃よりかなり低いため、間違ってPETと同じ温度でアイロンをかけてしまうと溶けてしまいます。低温でアイロンがけすればいいのですが、このあたりの周知が浸透していないこともあり、アイロンがけを伴うものは基本はPLAは使われていないようです。PLA繊維は基本的に疎水性ですが、PET繊維と比較すると水に対する親和性が良いことから速やかに水分を吸水し、拡散させる特性があります。スポーツウェアなどの機能性衣料への展開も考えられています。
https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/polylactic-acid-pla-market
上のグラフは米国のPLA樹脂の用途の比率です。PLAの6割は包装用、繊維用に使われているといわれます。3Dプリンタ用のフィラメントはどこに分類されるのかわかりませんが、おそらくElectronicsかOthersに分類されるのかと思われます。PLAはフィラメントでは広く使われていますが、PLA樹脂全体として見ると、たぶんほんの一部なのでしょう。
生分解性を活かしたところだと、外科用縫合糸や生体吸収性インプラントとして利用されています。体内でエステル結合の加水分解により無害な化合物に分解されるため摘出が不要で、術後は次第に体内に吸収されていきます。生体に対して毒性がなく、生体内の水分や酵素で分解吸収されるポリマーとなるとごく少数に限られます。PLAは臨床応用されている数少ない樹脂で、貴重な存在です。
変わったところだと、土木工事にも使われていることがあります。土木シートというPLA繊維でできた軟弱地盤安定剤で埋め立て地や法面によく使われます。地面深くを掘ってシートを敷き、その上に盛土を乗せることで軟弱地盤の盛土の変形、すべり破壊を防ぎます。従来はポロプロピレンなどのシートが使われていましたが、PLAだとやがて生分解するので都合がいいわけです。
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