PLAの生分解メカニズムについて

PLAは生分解性樹脂としてエコなイメージがありますが、実際にどのように分解していくのかはあまり知られていません。PLA分解のメカニズムについて整理してみたいと思います。

PLAの生分解はどうやって起きる?

PLAの生分解メカニズム

https://www.tappi.org/content/enewsletters/eplace/2007/06PLA06.pdf

説明はNature3Dが日本語で記載

 

上はPLA分解がどのように進むかを示した図です。横軸が日数、左の縦軸がPLAの分子量、右の縦軸は分解に伴って放出される二酸化炭素の割合です。PLAの分解は二段階で進行します。一段階目は加水分解(黄色矢印部)、二段階目が生分解です(青色矢印部)。PLAの分解はかならず段階を踏む必要があります。一段階目を飛び越えて二段階目の生分解は起きません。

 

まず一段階目の加水分解ですが、意図的にPLAの加水分解を起こそうとすると60℃以上の温度が必要になります。なぜこんな高めの温度でないと加水分解しないかというと、PLAのガラス転移点が約55℃で、ガラス転移点を超えた温度にしないと分子運動が活発になりません。低い温度では水分の取り込みは起こるものの、水分による分子鎖の切断はなかなか起きないからです。

 

この60℃というのが少し手ごわい温度で、なかなか自然環境では作り出されません。堆肥などを作るコンポストの中では発酵による発熱が起こり、温度が高くなりますので60℃という温度はクリアできます。写真は落ち葉から堆肥を作っている様子です。堆肥化時に落ち葉が発酵によって高熱になり、煙が出ることがあります。

落ち葉からの堆肥作り

http://alivelogger-com.check-xserver.jp/store_blogs/index/4/10

堆肥作りの様子
PLAは堆肥(コンポスト)などの高温でないと加水分解しない

 

自然に近い環境で60℃を超える条件となるのはコンポストくらいです。なのでPLAの生分解の資料を見ていると注釈があって、「コンポスト条件にて3週間で分解」などと書いてあるわけです。ガラス転移点以下の温度でもPLAの加水分解は起きます。ただし普通の石油系プラスチックと同じくらいの極めてゆっくりとした速度です。コンポスト条件でないとPLAは分解せず、普通のプラスチックと同じように環境中に残り続けるため、石油系プラスチックと何ら変わりません。コンポストで処理しないならPLAは安易に環境中に投棄すべきではありません。

 

加水分解が起きるとPLAの分子の鎖が切れて分子量が下がっていき、ポリ乳酸が乳酸に近づいていきます。分子量というのは高分子の鎖の長さのようなものです。長い鎖が切れていくことで少しずつ鎖が短くなっていきます。鎖が切られていくと次第にPLAは脆くなっていき、分子量2万くらいでボロボロに崩壊を始めます。さらに分解が進んで分子量1万くらいになると、ここで初めて二段階目の微生物による生分解が起きることになります。微生物分解によって乳酸やオリゴマーが分解されはじめ、分解の速度が加速します。乳酸とオリゴマーは最終的に二酸化炭素と水になって分解が完了します。

 

PLA樹脂の分解過程

PLA樹脂の分解過程

 

「生分解性樹脂」という言葉を聞くと、多くの人は自然の中に放置すれば分解してくれるんだというイメージを持ちますが、残念ながらそうではありません。PLAは生分解性樹脂として扱われていますが、どんな環境でも分解するわけではないことを考量すると、PLAは「生分解性樹脂」というより、「条件がそろえば分解可能な樹脂」として考えたほうが実態には合っているのかもしれません。

 

石油系プラスチックは生分解しないのか

少し脱線しますが、実はポリエチレンやポリプロピレンなどの石油系樹脂も、一段階目の分解は起きます。加水分解するものもあれば紫外線劣化で分解するものもあります。屋外で使う洗濯ばさみがボロボロになる経験をされた方もおられるかと思いますが、これはポリプロピレンが紫外線劣化で崩壊を起こした例です。3Dプリンタで使われるABSも紫外線劣化します。

 

一般の石油系樹脂は一段階目の分解でボロボロになってはくれるのですが、そこから先、二段階目の微生物による生分解がなかなか起きません。ポリエチレンの場合だと分子量500くらい(ほとんどワックスに近い領域です)まで低下すると生分解が起きることが確認されていますが、ここまで達するのに、シミュレーション上では紫外線を33~45年ずっと当て続ける必要があるという調査結果があります。(https://arc.asahi-kasei.co.jp/report/arc_report/pdf/rs-1026.pdf)このような条件は自然環境で実際には起こりえません。ですので実際は生分解しないのと同じというわけです。

 

生分解が起こらなければプラスチックは崩壊してボロボロになった後、破片をばらまいて終わりになってしまいます。これがいま盛んに言われているマイクロプラスチックです。細かくなって一見わからないくらいの大きさになりますが、見えなくなってもずっと分解しないままプラスチックとして残るため、破片が最終的には海に流れ着いて延々漂うことになります。これを間違って魚たちが食べてしまい、食物連鎖でまわりまわって生態系に影響を及ぼすのではと懸念されています。

 

マイクロプラスチック

マイクロプラスチック:http://cuer.law.cuny.edu/?p=1961

 

現在海に流れ着いても生分解してくれる海洋生分解性樹脂の開発が盛んにおこなわれています。これがマイクロプラスチック対策の切り札として考えられていますが、これも温度が低いと分解しにくくなると言われており、海洋生分解性樹脂とてどんな条件でも分解するわけではありません。プラスチックは安価で使いやすい材料ですが、それだけに適切に回収して廃棄し、環境への流出をできるだけ抑えるということを徹底したいものです。