フィラメントの乾燥で気を付けておきたい3つのこと

射出成型などの成形加工において、樹脂原料の乾燥は基本中の基本です。3Dプリンタでも例外ではありません。フィラメントに水分があるといろんな悪影響がでてきます。十分な乾燥がされていない、乾燥にバラつきがある、などは造形不良の原因となります。フィラメントの乾燥は何に気を付けたらいいか、あまりこれといった考え方がありません。3つの視点から整理してみたいと思います。

 

1.乾燥の方法

 

水分はシリカゲルでとれる?

樹脂の水分は表面に吸着しているものだけでなく、分子に構造的に取り込まれているものが多いと言われています。デシケーターにフィラメントとシリカゲルを入れて、多少水分が取れる可能性はありますが、ほとんどの水分は残ったままになると考えたほうがよさそうです。シリカゲルは一度乾燥したフィラメントに対し、再度水分が取り込まれないよう防湿保管するためのものとして使うことが好ましいです。

 

高温保管なら大丈夫?

ヒーターで温度だけ上げた状態で密閉保管すればいいかというと、これも実は不十分です。温度を上げても空気がそのままで入れ替わらない場合はすぐに空気が飽和してしまい、これ以上水分が樹脂から出てこなくなります。巻外は乾燥できても巻芯は空気が動かないので乾燥不十分といったことが起きやすくなります。

 

熱風対流方式がベスト

樹脂の乾燥では絶えずドライエアを送り込み続けることが必要です。空気は常に入れ替わらないといけません。空気が入れ替わらないと、意味としては単純な加熱と同じで、飽和してやがて乾燥は止まってしまいます。実際の成形加工で使われるペレット乾燥機も、ほとんどはドライエアを送り込んで循環させる方式になっています。家庭用の機器でこのような形になっているものの1つがフードドライヤーです。下のブロアーから加熱空気が送られ、上の排気口から空気が抜けるので常に空気が入れ替わっています。布団乾燥機やヘアドライヤーを使う場合は、プラスチックコンテナなどで箱をつくり、空気が入れ替わるための排気口を空けておくと乾燥効果がより高くなります。

フードドライヤーなど乾燥機は、空気を加熱して相対湿度を下げた空気を送り込んでいるだけで、空気の水分を取り除いているわけではありません。フィラメントの乾燥度合いは室内の湿度に影響されてしまうため、梅雨時や夏場は乾燥が効きにくくなることがあります。この場合はエアコンや除湿器で湿度を下げてやると乾燥効果を上げることができます。

 

2.乾燥温度

 

乾燥温度設定の考え方

何度で乾燥すればいいのかは悩みどころです。基本的な考え方はガラス転移点を超えないギリギリの温度を設定するということになります。ガラス転移点を超えるとフィラメントが変形してしまいます。変形するギリギリ手前の温度を設定すれば乾燥効果が最も高くなります。中にはガラス転移点が室温以下の材料もあります。例えばTPUです。TPUのガラス転移点は-20℃くらい。この時には各樹脂の荷重たわみ温度(英語ではHeat Defection Temperature:HDTと記載されていることが多い)を参考にするといいかと思います。基本はガラス転移点、ないし荷重たわみ温度-5~-10℃くらいが乾燥温度設定の目安です。

 

実温測定して設定する

ほとんどの乾燥機は本体で温度設定する形になっていますが、実際にフィラメントが置かれている場所の実温を測定して設定することが必要です。温度計がついていても、温度ムラが大きい可能性があるため、あまりあてにしないほうが無難です。吹き出し口付近が最も温度が高く、排気口付近が最も温度は低くなります。いくつもフィラメントを入れる場合は必ず温度差ができるので、位置によって乾燥のされ方に差が出てくることを頭に入れておいたほうがよいです。

 

スプールを見落とさないように!

見落としがちですが、スプールの耐熱温度がフィラメントより低い場合があります。透明スプールはポリスチレン(荷重たわみ温度約65℃)が多いです。黒スプールはポリスチレンとABS両方があります。見分け方が難しいですが、基本は硬質のものはポリスチレン、しなるものはABS(荷重たわみ温度約75℃)です。スプールによっては材質が記載されていることもありますので確認してください。例えば、フィラメントがABSで、スプールにポリスチレンが使われている場合、フィラメントは無事でもスプールが変形してしまうことがあります。スプールの上限温度が乾燥の上限温度になります。

 

3.乾燥の評価

 

乾燥度合いの評価

吸水率は乾燥前後の重さを測定し、以下で算出できます。

 

吸水率(%) = (乾燥前重さ-乾燥後重さ)/乾燥後重さ × 100

 

スプールが入った状態での評価ですので正確ではありませんが、乾燥が本当にできているかを知る上では十分だと思います。材質にもよりますが、吸水率は各樹脂0.数%程度です。キッチン用の電子はかりだと、重さが1kgほどないと少なすぎて重量変化が把握できないこともあります。その場合はプリント外観で評価するしかありません。何か小さい形状を乾燥前で造形し、乾燥後に同じ形状を造形して外観を比較すると良いかと思います。

 

いくら乾燥しても吸水率はゼロにはならない

成型加工で行われるペレット乾燥は比較的高温で行われます。吸湿剤で露点の低いエアを使ったり、減圧加熱乾燥などもできるので、吸水率が数百ppmという絶乾に近い状態を作ることができますが、残念ながらフィラメントは低温でしか乾燥できません。そのため、どういう方法でもある程度で乾燥が止まってしまいます。低温でいくら時間をかけても乾燥は完全なところまで進行しません。民生用の3Dプリンタではある程度フィラメントが水分を含んだ状態でしか使えないことになります。通常の造形であればこれでも十分です。さらに吸水の影響を受けないようにしたい場合は、吸水の低いフィラメント、非吸水性のフィラメントを選択するといいかと思います。

 

フィラメントの熱ダメージ有無を知るには

大まかにはフィラメントにヨレがあるかどうか外観でわかります。多少ヨレてもPTFEチューブの抵抗にならなければ造形に影響せず使うことができます。乾燥条件の設定などでフィラメントに影響がでていないか正確に知りたい場合は、フィラメント径を縦横2方向で測定すれば加熱での扁平有無を確認することができます。成形加工の場合はペレットを乾燥しすぎると黄変したり特性が落ちたりすることがありますが、上に記載した通り、フィラメントは低い温度でしか乾燥できません。乾燥しすぎて劣化するというのは考えなくてもいいと思います。同様に、何回乾燥を行っても基本的には樹脂が劣化することはありません。