PLA造形品アニール時収縮率の測定

PLAの3Dプリント造形品をアニール処理すると収縮が発生します。これはPLAポリマーの結晶化によるものです。造形時にPLAはアモルファス状態になっていますが、アニールでの熱エネルギーを受けて結晶化します。このときにPLAの分子が折りたたまれて縮むため、程度の大小はありますが、PLAはアニールによって必ず収縮します。アニール時の収縮が大きいと当然ですが造形品が変形してしまいますので、収縮が小さいほうが有利です。実際にアニール処理を行い、収縮率がどれくらいなのか実際に測定してみました。

 

参考:PLAのアニール処理って何?

 

サンプルの準備

PLAは市販のPLA(P社品)、LFY3M(140℃耐熱PLA)LFG30(160℃耐熱PLA)の3種類としました。形状は20mmの立方体とし、以下の造形条件で3Dプリントを行いました。サンプル数は各1点です。

 

ノズル径 0.4mm
積層ピッチ 0.15mm
infill 30% (Rectilinear)
2周
Top&Bottom 4層

 

PLAアニール収縮率の測定サンプル

PLAアニール収縮率の測定サンプル

 

測定方法

測定はマイクロメータ(最小読み取り0.001mm)を使い、アニール前後においてX,Y,Z各面の寸法を測定しました。特にアニール後にねじれて変形し、測定箇所によって値がばらつくことも考えられるため、測定回数は各5回としました。

 

アニール前後の寸法測定

 

アニール前後の寸法測定

マイクロメータ(最小読み取り0.001mm)にてアニール前後の寸法測定

 

アニールの様子

今回のアニール条件は110℃ x 20分としました。110℃がPLAの結晶化が最も進むと言われている温度です。Nature3Dでは収縮変形を少し抑えるために通常は100℃でのアニールを行っていますが、今回は最も収縮が大きくなる条件 = 最もキツイと予想される条件でテストを行いました。

 

PLAアニール投入の様子

PLAアニール投入の様子
(サンプルをトレイに乗せて投入。家庭用オーブンレンジにて)

 

PLAアニール中の様子

PLAアニール中の様子
(オーブンモードにて。110℃ x 20分加熱)

 

アニール後のサンプル形状

アニール後の目視での変形有無を確認しました。わかりやすくするため3つのサンプルを並べて写真をとったのが下記です。

 

PLAアニール後のサンプル形状

Z方向を上から見下ろしている形の写真です。写真左右がX方向、上下がY方向です。一番左のP社品はX-Y方向に収縮しており、若干太鼓型に変形しています。LFY3MとLFG30は目視での変化は特にありませんでした。

 

 

PLAアニール後のサンプル形状

Y方向を上から見下ろしている形の写真です。写真左右がX方向、上下がZ方向です。一番左のP社品はZ方向に膨張しました。X-Y平面方向に縮んだ分の歪みがZ方向に解放されたのかもしれません。

 

特記事項として、変形ではありませんが、P社品はアニール後にトレーと接触している面が、半溶融状態となってトレーに貼り付いていました。指でつまんではがすことができず、少しトレーをひねって剥離しました。P社品は高温での軟化の度合いが大きく、最も荷重を受ける底面が大きく変形して貼りついたのだと思われます。LFY3MLFG30ではこのような貼りつきはありませんでした。

 

アニール前後の収縮率測定

アニール前後の寸法を測定してまとめたのが下記の表とグラフです。サンプルとしてはN=1です。これを5回測定して平均値を出し、((アニール前 / アニール後)-1) x 100を収縮率としました。収縮率ですのでマイナスの値は膨張しているという意味になります。標準偏差は測定値の測定バラツキで、この値が大きいほどバラツキが大きいことになります。測定自体のバラツキも含みますが、主にアニール後のねじれの指標として見ることにしました。

 

PLAアニール前後の収縮率測定結果

 

PLAアニールによるXYZ各方向の収縮率グラフ

 

P社品はX方向に2.31%、Y方向に2.8%の収縮があり、Z方向は3.78%の膨張がありました。標準偏差はアニール前よりアニール後の方が大きくなりました(表青字部分)。上の写真でも記載しましたが、太鼓型になっているためこの分測定バラツキが大きくなっているようです。

 

LFY3MLFG30ともX方向、Y方向ともほとんど収縮はなく、Z方向には最大0.5%ほどの収縮がありました。また、アニール前後でも標準偏差に大きな差がないため、ねじれた形で変形は起きていないようです。これら2点はPLA樹脂中にフィラーが入っているため、フィラーによって変形が大きく抑制されていることが原因と考えられます。